タイミーCFOが語る「成功の確率」を上げるファイナンスとは

昨年、総額183億円の大型資金調達を実施し話題となったタイミー。
タイミーは、働きたい時間と働いてほしい時間をマッチングするスキマバイトサービス「タイミー」を運営するスタートアップだ。
2017年の設立からわずか6年目の企業ながら、アプリのユーザー登録数は累計400万人、従業員数は600名を超えるなど、まさに破竹の勢いだ。
そんな急成長の裏では、資金調達などファイナンス面での舵取りが重要であることは言うまでもない。中には成長速度に追いつかずキャッシュアウトが先行して、黒字倒産してしまうスタートアップもあるからだ。
本記事で迎えるのは、タイミーCFO(最高財務責任者)の八木 智昭氏
2020年からタイミーに参画してから、どのような考え方や行動で同社をファイナンス面で支えてきたのか、そして後払い決済の雄ネットプロテクションズが提供する決済代行サービス「NP掛け払い」を活用した、攻めのバックオフィスの作り方について話を聞いた。

ファイナンスは、急成長に欠かせない動力源

──タイミーの急成長は目を見張るものがあります。その成功の要因は何でしょうか。

八木 急成長の要因の一つは「逆算思考」にあります。私たちの場合は、3年後や5年後に実現したい世界観を定義した上で、逆算的に経営を考えています。

積み上げ思考で事業を拡大していくことを否定しませんが、逆算思考でないと短期間で理想の状態に持っていくのは難しいです。そのため、現状から考えたらダイナミック過ぎるくらいの経営判断をして、異次元の目標を立て、その実現に向けた大型のファイナンスを実施しています。

それらが上手くいったことで、前例のないスピードで順調にスケールし、タイミーはマーケットシェアNo. 1のポジション※1を構築できました。ただし、まだまだ成功したとは言えず、成功を目指している途上であることが前提です。

※1:調査方法:デスクリサーチ及びヒアリング調査/調査期間:2021年2月8日〜22日/調査概要:スキマバイトアプリサービスの実態調査/調査対象:2020年12月までにサービスを開始しているスキマバイトアプリ10サービス/調査実施:株式会社ショッパーズアイ

──逆算思考で投資判断する際のポイントは?

逆算思考で投資判断する際には、短期ではなく中長期目線でその投資が適切かどうかを必ず検証することが重要だと考えます。

例えば、現時点で投資した事業上の効果や財務上表れる実績は、半年後、1年後、更には大きな成果だともっと先になる可能性があります。

そのため、中長期的な目線を持って投資しないと、想定したものと違う結果が出てきてしまい後戻りできなくなってしまいます。だからこそ、数年後の事業面や財務面でのありたい姿を定義しています。

そこから逆算して、今どこにどのように投資をすれば良いのかを判断して、行動するべきだと考えています。また、短期的には赤字であっても、エコノミクスが合い中長期的にはむしろプラスであればダイナミックに投資するようにしています。

──すべては想定の範囲内?

いいえ、想定の範囲内ではありません(笑)

サービスローンチをしてから4年半、私が入社してから2年半弱が経っていますが、山あり谷ありで、すべてを想定するのはなかなか難しいです。あくまで高い目標設定に対して細かい改善やチューニングを繰り返す。

外部環境が変わってしまったりするたびに軌道修正して、想定外を想定内に変えていったのが実情です。

──スタートアップを取り巻く市況についてはどう見ていますか。

2021年の秋くらいから、スタートアップに対して逆風が吹いています。

未上場企業のダウンラウンドでのIPOや上場を果たした企業でも株価が軟調だったりと、スタートアップの資金調達環境は徐々に厳しくなっています。投資家の投資先選別が厳しくなり、結果を出さないと評価されなくなります。この状況は一時的なものではないでしょう。

このような環境だからこそ、株式によるエクイティファイナンス※2だけではなく、資金使途に応じた多角的なファイナンス手法を検討し、銀行融資などのデットファイナンス※3を含めた調達戦略を練る必要があると思います。

※2:企業が新しく株式を発行することで、事業に必要な資金を調達する方法のこと。
※3:銀行借り入れや社債発行による資金調達のこと。

厳しい時代が来たことは、タイミーとしてもひしひしと感じていました。これまで多額の調達を重ねてきた中で、資金調達は経営の中で大きなテーマとして「動力源」になっていましたから。

「エクイティ1本足打法」の危うさ

──資金調達が動力源になっている?

はい。ここで言っている「動力源」とは、ファイナンス面でタイミーの成長を後押ししてドライブさせる、といったニュアンスです。

企業がどんどん成長していくと、資金が足りない局面が必ず出てきます。タイミーのサービス自体、運転資金が発生するビジネスなので、調達戦略を前もって立てていく必要がありました。

急成長するタイミー

スタートアップは、財務体力や信用が十分かというとそうではありません。

一般的に見て銀行から資金調達するのが難しい中で、昨年度に実施した183億円の資金調達は、メガバンクを中心とした各銀行さんが当社の財務面を信用していただいたことで実現できました。

金利は1%未満、無担保・無保証の比較的好条件で融資を受けられたのは、逆算思考であらかじめ金融機関との関係構築を深めてきたからです。

──初期はエクイティメインで資金調達しているように思えますがどのように変わっていったのですか。

私が2020年にジョインしてからは、タイミーにとって最適な調達戦略とは何なのかを定義しました。初期は事業成長をメインとした事業会社やCVCからの調達が多かったのですが、少しフェーズが変わり、機関投資家など海外のクロスオーバー投資家に入ってもらったのもこの頃のタイミングです。

金額も大型になり、デットとエクイティを使い分けながら戦略を構築。現在は信用力で評価してもらい、スタートアップながら大型かつ無担保で細かい制約条件等もほぼない比較的良い条件で資金調達ができています。

もともと私は証券会社にいましたので、その視点から見ても「現況はちょっとバブルに近いな」と2020年当時から感じていました。このまま低金利時代が未来永劫に続くわけはない。

外部環境の変化を考えたときに、エクイティファイナンスだけに頼る「1本足打法」では中長期的な事業成長を見据えた時に心もとない。それで、ジョインしてからは金融機関の開拓を徐々に進めていきました。

3年後・5年後を見据えて調達戦略を設定しつつ、先行的に金融機関と接点をもつことが大事です。 金融機関に対して質と量を保った関係を構築し、信頼と安心を醸成することを心がけましたね。

初期投資ラウンドのシリーズA、シリーズBの資金調達のタイミングなどでは、思い描いた通りの銀行借入ができないこともありますが、都度軌道修正を行い続ければ中長期的には絶対プラスに働くと思います。

──CFOとして持っておくべき重要な視点はありますか。

CFOは、会社としての投資判断を日々、定量的に細かく見ることが大事でしょう。

仮に金額の大きい投資でも1年後に実を結んで事業にプラスをもたらす可能性があるなら投資すべきですし、逆に1円でも10円でも将来的に無駄になってしまうなら、それは投資をしない、という判断をすべきです。

一方で、スタートアップであるからには革新的な事業を創る必要があり、成長のためには、ある意味で非常識なことをやっていかなくてはいけません。

だから、リスクがあるからと全部に「NO」を言ってブレーキを踏むのではなく、目的達成のための最適な手段かどうかをしっかりと考えて経営陣で議論をし、都度軌道修正していく必要があると思いますね。

銀行から信用を得る情報開示のコツ

──スタートアップのデットファイナンスのコツはありますか。

銀行からお金を借りる場合は、当然ながら信用が必要です。しかし一朝一夕に信用は作れません。そのため私たちは先回りして金融機関とコミュニケーションを取り、いつでも資金調達ができるような土台を作っていきました。

私が銀行員だった経験から、金融機関が求めているもの、つまりどの条件が揃っていれば納得してもらえるか、大丈夫だと思ってもらえるかを肌感として分かっていたことも大きいと思います。

──信用を得るには具体的にどうすればいいのでしょう?

繰り返しになりますが、信用は一気には作れないので、1つひとつを大切に地道にコツコツ積み重ねていくのが重要だと思いますね。

タイミーは新しいビジネスなので、金融機関から見るとお金の流れがなかなか分かりづらい。そこで私が財務戦略や調達戦略を作成し、コーポレートチームと協力しながら進めていきました。

会社のビジネスモデルや成長戦略は勿論、ビジネスモデルとリンクした資金の流れ(キャッシュフロー)を日次単位で計画と実績でどうなっているのかまで、銀行に開示しました。

また、現時点の実績ではなく、将来のPL(損益計算書)、BS(貸借対照表)で与信判断をしてもらうために将来の財務内容がいかに信用できるかを訴求していきました。毎月の実績進捗と重ねながら、毎月の計画に対して上回っているという「数字の確からしさ」を示すことも大切です。

高いハードルへのチャレンジは全体像と中長期視点で伝え、金融機関に対して資金提供への「安心」を醸成していきました。

ファイナンスを充実させることで、「これだけの資金があるからこれだけの投資ができるし、スケールもできる」状態が作れます。まさに、限りなく会社が成長できる環境を、ファイナンスを通じて先行的に整えることで実現しているのが当社の特徴だと言えます。

多くの資金があればその分、お金の使い道に制約が少なくなり、投資の選択肢が増えます。このように中長期的な理想に近づけるために多くの投資選択肢をもてるようにし、最適な投資アロケーションを行うことがCFOの役割だと考えています。

攻めのバックオフィスにも重要な逆算思考

──成功の確率を上げるために、どのような組織の環境づくりを心がけていますか。

まだ成功していない前提ですが、その確率を上げるには当然、経営陣だけで成し遂げることはできません。異次元の目標を達成するために、上から目線でただ現場に下ろすだけではなかなか一枚岩になって取り組むことはできません。

環境づくりで私が心がけているのは、経営判断の背景をなるべくオープンにして伝えることです。「中長期的にこういう状況にしておく必要があり、そのためには今こういうことをする必要がある」とチーム全体がしっかり理解してくれるように、なるべくオープンに共有しています。

一方通行では伝わりにくいこともあるため、ちゃんと伝わらなければ、双方向で対話します。質問があればすべて答えることを心がけていますね。

私たちは「攻めのコーポレート」を合言葉にかかげています。売上成長や事業拡大となるとバックオフィスはあまり関係ないと思われがちですが、前例のないことに挑戦しゼロから新しいことを作っていくとなると、同じ船に乗る船員として一体にならないと上手くいきません。

そうした心がけの成果もあってか、チームメンバーから「もっとこうしていきたい」「このほうがお客様のためになるのではないか」などの言葉が能動的に出てくる「攻めの文化」が醸成されています。

こうしてバックオフィスが土台になっているからこそ、事業は安心して成長ができ、営業チームも安心できる。極限まで成長できる理想の状態を先回りして整えるというという意味で、「バックオフィスが事業をドライブさせる」と考えています。

──ここでも逆算思考が出てきましたね。

数年先を見越して逆算すれば、先回りができます。「1年後にはこれくらいの成長が必要です。すると、コーポレートサイドはこういう体制が必要で、これくらいの請求量を処理できる体制になっていなくてはいけない」と想定できます。

現状は請求関連のバックオフィスメンバーが4名体制ですが、逆算思考すると育成や人員補充では急成長に間に合いません。

しかし一方で、バックオフィスがボトルネックになって、お客様の新規利用をストップすることは私たちのミッションに反します。ではどうするか。

先回りして土台を築いていくために、ネットプロテクションズさんの企業間取引向け決済サービス「NP掛け払い」を2019年から活用させていただいています。

NP掛け払いHP

「NP掛け払い」は、企業間の後払い決済(請求書払い)代行サービスで、買い手企業への請求書発行と代金請求、それに伴う与信管理をアウトソースできてしまいます。

タイミーのビジネスモデル上、非常に多くのお店や企業と取引があり、月に数千社の請求と売掛金の回収業務を弊社スタッフ4人で回さなくてはいけません。

とてもその人数ではさばけるはずもなく、人員を増やすにも、今の事業拡大のスピードでは採用も追いつかない現状があります。

そのような中では、NP掛け払いは欠かせません。与信の調査管理から請求代行までやっていただけるので、ネットプロテクションズさんのサポートにより事業拡大につながる「攻めのバックオフィス」に専念でき、何よりも未回収リスク保証があるのでスタートアップとしても安心です。

──具体的に、どのような場面で助かっているのでしょうか?

社内のメンバーじゃないと対応できなさそうな事案や要望も、現場のメンバーがSlackで相談してみると、すごく親身になって対応方法を一緒に考えてくださる。

タイミーの社員以上に請求業務を知り尽くしているので社員で解決できない事案に多くの実績に基づくノウハウと知見を活用して瞬時に的確なソリューションを提供してくれる。スタートアップのバックオフィスを支える重要な組織の一部になっていますね。

相談したら何とかしてくれるかもしれないという気持ちでご一緒できるのは、すごくありがたいです。当社は元日にも請求書の発行業務があるのですが、そちらも快く対応していただけて、大変心強く感じています。

これだけお任せできるのは、ネットプロテクションズさんに実績があるからです。かなりのボリュームですから、これが崩れると当社のお客様からの信用を一気に失ってしまいます。

これほど重要なオペレーションフローを実績がない企業にお任せするのは、経営判断としてもリスクが高くなってしまうのです。

この領域においては、ネットプロテクションズさんしか選択肢がありません。

信念を持って判断するのが逆算思考

──最後に、スタートアップの経営者が事業拡⼤を推進する上で、どのような考え⽅やマインドセットが必要だと思いますか。

繰り返しになりますが、中長期的な目線をもって経営判断をすることです。

⽬先のベネフィットも重要ながら、中⻑期的な視点でどういう会社にしたいか、どういう状態にしたいかをしっかり定め、信念を持ってやり続けることが⼤事でしょう。

逆算思考での経営判断は、その時は「誤った判断」と言われることが多いですが、実績を積み重ねることで次第にそれが「正しい判断」になっていく。タイミーの場合、コロナ禍の初期は事業に困難の局面がありましたが、それを乗り越えて成⻑してきました。

信念を持って判断し、軌道修正を繰り返して理想の状態に近づける努⼒を怠らないことが必須だと思います。

(制作:NewsPicks Brand Design 執筆:山岸裕一 撮影:吉田和生 デザイン:TCP inc. 編集:花岡郁)

BtoB・企業間後払い決済/請求代行サービス「NP掛け払い」